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「相神原の地酒です。この緑色も今から話す内容にぴったりのカクテルですよ」
「緑色が何か関係あるのか?」
緑から連想されるもの、自然、樹木、森、山、食欲。僕はグラスを眺めながらいろいろと考えだす。
「もともと相神原の相神とは山の神、つまりは山神(さがみ)から来ているそうです。山の神に守られた土地、山神原、が語源なのだとか」
なるほど。それで緑色のこのカクテルというわけか。
「確かに、四方を山に囲まれたこの街なら、その説も納得だな」
「四方を山々に囲まれ、その中で山の神に守られながらこの街は発展してきました。この街に住み始めて歴史書などを読み漁りましたが、これだけ山に近い地形でありながら、今までに一度も、土砂災害や洪水などの自然災害に見舞われたことはないんです。山の神の力が、それだけ大きくこの街を守っていると言っても過言ではない」
「そんな分かりやすく影響が出せるものなのか?神様の力ってやつは」
「多くの人は偶然や幸運という言葉で片付けるかもしれませんね。ですが、長い歴史の中でそれが山の神様のおかげだという信仰心を抱く人が少なからず現れる。その信仰心がまた山の神に力を与える。そうやって人と神は寄り添って生きてきたのではないでしょうか」
「それが、この街に怪異が溢れている原因なのか?」
「人と神の距離がとても近い土地なんですよ。ここ相神原はね。だからね加賀宮さん。これは忠告です」
「忠告?」
「あなたは優しい人だ。例え相手が怪異であっても構わず関わりを持ちたがる。でもね、その全てが人と神、双方にとって幸せになれる解決ができるとは限らない。時にはどちらかの願いや幸せを犠牲にしなければならないこともある」
「もしかして僕を心配してくれているのか?」
「山の神は国造りの神です。その力はとても強大だ。人間なんて山の神の前ではちっぽけな存在に過ぎません。ほら、小さくなることを「しゃがむ」っていうでしょう。これ山の神、つまり山神(さがみ)と人間の関係を表した言葉だって言われてるんですよ」
「へえ。日頃何気なく使ってる言葉にそんな意味があったんだな」
「そう。それくらい神と人間は距離が近い存在なんです。この街ではそれが具現化して現れやすい環境なんです」
八十国はそう言うと姿勢を正して真っ直ぐに僕の目を見た。
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