複雑な気持ち

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昨日の放課後 俺はいつも通り部活に打ち込み、汗を流していた。 やっときつい練習も終わり、片づけをしている時、後輩たちの話題に耳を奪われていた。 「…月島先輩、まじで彼氏いないんだってよ」 「まじかよ。絶対いそうなのにな」 話題に上がっているのは睦美のこと。 こんな話題は日常茶飯事のように聞くが今回は少し違った。 「だから告っちゃえよー、水樹ー」 「うーん…」 困ったように微笑んでいるのは俺の後輩の志木水樹。コイツはだいぶ前から睦美のことが気になっていたらしい。 「ねー、イヌ先輩!!そう思いますよね!!」 「ん?おーそうだなー」 犬先輩。それは佐間犬という俺の名字からとった愛称で後輩たちはみんなイヌ先輩と呼ぶが、志木だけは俺を「佐間犬先輩」と呼ぶ。 「佐間犬先輩困ってるだろ。もう俺のことはいいから片付けしようぜ」 志木がいつもみたいに優しく笑うからなんだかイラっときた。 「余裕かよ…」 ボソッとつぶやくと志木が気づいたみたいで「先輩?」と声をかけてきた。 「俺が手紙書いてやるよ」 「…えっ?何言ってるんですか先輩」 「そのまんまの意味だよ。おら、待ってろー!!」 「ちょ、先輩!!」 俺は持っていたモップを志木に無理やり手渡し、部室へ行って睦美宛の手紙を書いた。その時の感情は俺にもよくわからなかった。 ……ただ、 “失敗すればいい” なんて黒い感情があったことは自覚している。 「ちょ、ちょっと先輩!!まじで書いてるんですか?!」 息を切らした志木が部室に駆け込み、俺を見た。 俺はにやりと笑い、書き終えた手紙を志木に手渡した。 「シンプルイズベスト。捨てたら承知しねぇからな」 ニヤリと笑った俺を見つめ、志木は困ったように首に手を当てた。 「でも…俺、月島先輩のクラス知りませんし、三年生の校舎に入るのはちょっと…」 「あー?めんどくせぇなぁ。…もう少ししたらこの体育館に自主練しに高政暦ってやつが来るからそいつに渡しとけ」 「え、その人も俺知らないんですけど」 「大丈夫だって。名前名乗って、月島宛の手紙だって言ったら喜んで受け取るから。じゃ、俺先に上がるわ。じゃーな」 「あっ!!ちょっ!!」 俺は志木の言葉を無視し、さっさと部室を出た。 春風の吹く外は心地よかったが、喉に何かが引っかかっているような気がして俺は何度も咳ばらいをしては舌打ちを繰り返した。
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