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凛太郎も、両親がいない子供の一人で、お母さんに気に入られて私の家族になることになった。
「僕、むっちゃんのお家に住むの?」
「そうだよ。不安?」
凛太郎は、少し困った顔をした後に恐る恐る口を開いた。
「…りんた、なきぴーだから、知らないところおっかない」
独特の言い方に少し驚きつつも、『泣き虫だから、知らないところが怖い』と言っているのだと理解した。
「大丈夫だよ。怖かったら私が守ってあげるから」
「おんと?」
「うん、ほんと」
やっと、弟が出来るという実感が持ててきた私は得意げになって目を輝かせた。凛太郎は、そんな私を見て、へにゃっと笑った。
「…お待たせ。仲良くしてた?」
奥の部屋からお母さんと生田さんが戻ってきて、私と凛太郎の顔を交互に見た。
「むっちゃん、りんたのお姉ちゃんになるんだって」
凛太郎は生田さんの顔を嬉しそうに見つめた。生田さんは少し驚いた顔をして、私を見た。あんまり不思議そうに私を見つめるものだから肯定できずにお母さんの顔を見た。
「ふふっ。そうね…」
お母さんは心配そうに口を小さく開けている私の頬を撫でた。
「睦美はお姉ちゃんになりたいの?」
「私は…」
私は。その続きの言葉を待つお母さんは何も言わずに首を傾げた。
「私は、なりたい。ちゃんとお世話もするし、いい子にもなる」
まるでペットが欲しいと頼んでいるような言い方になってしまったということは言った後で気が付いた。
ほんのちょっとの罪悪感を感じ、凛太郎をちらりと見たが、凛太郎は少しも嫌な顔をしていなかった。
「でも、凛太郎がそれでいいなら…」
お母さんは、あら、と小さく言い、「ちゃんとわかってるのね、偉いわ」と付け足した。私には何がわかっていて、何が偉いのかよくわからなかった。
「凛太郎はどう?睦美がお姉ちゃんになるって」
聞かれた凛太郎は困ったように生田さんを見た。
「正直に言って大丈夫。思ってることをみんなに教えてあげて」
生田さんがそういうと、凛太郎は意を決したようにスッと息を吸い込んだ。
「僕、むっちゃんがいい」
息が止まった。
「むっちゃんがお姉ちゃんがいい!」
「…そう」
お母さんは心底安心したように深く息を吐いて、生田さんを見た。
私は息が止まったまま、凛太郎を見つめていた。凛太郎は相変わらずもじもじと鞄を弄っているが、その表情は少し照れくさそうでもあった。
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