出会い

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深呼吸を重ね、心を落ち着かせた。 「それでは新一年生の入場です。拍手で迎えましょう」 アナウンスが流れると同時に拍手が大きくなり、体育館の扉が開いた。 緊張している一年生はみんな表情が硬く、口を真一文字に結んでいる人がたくさんいた。 ちらりと保護者席のほうを見ると、すぐにお母さんたちを発見することができた。「目立つように、赤いカーディガンを羽織るからね。パパは赤いハンカチを胸に添えとくからね」とお母さんは何度も私と凛太郎に告げた。「わかったよ」と呆れた様に笑った凛太郎は先に家を出る私を見送った。 凛太郎はどこだろう。 私は入り口をじっと見つめ、凛太郎の姿を探した。人より色素が薄くて髪の毛が茶色い凛太郎は、人より目立つ。おまけに肌が白いから学生服によく映える。 そろそろ最後尾が近づくと思ったころ、やっと凛太郎らしき人物を見つけた。 あ、と小さく声を漏らし、首を伸ばした。 そうだ、凛太郎だ。 お母さんたちも凛太郎を見つけたらしく、ビデオカメラを熱心に動かし手を何度も振っている。凛太郎はそれに気づいているのかわからないけど、お母さん達の方は絶対に振り向かなかった。 それもそうだ。男の子はそういうのは恥ずかしいんだ。ましてや思春期の凛太郎が手を振り返すことなんて絶対にしないだろう。 私の言いつけ通り、背筋を伸ばし、腕を振って歩く凛太郎は誰よりも立派に見えたし、誰よりも格好良く見えた。 誰にも気づかれないようにそっと笑った私は椅子に座った凛太郎を見届け、拍手を止めた。 しんと静まり返った体育館に教頭先生の司会が始まる。 私は自分の番が来るまで凛太郎にばれないように凛太郎のことを見ていた。 改めて凛太郎と周りの人を見ると凛太郎がいかに目立つかがわかった。 やはり茶色い髪の毛は周りの黒い髪の毛に浮いてしまう。それになんといっても、凛太郎はかっこいい。姉の私が贔屓しているとかそういうわけではなくて、本当にかっこいいのだ。小学校に入学した頃の凛太郎はかっこいいというよりも可愛くて、近所の人や同じクラスの人からはいつも可愛いと言われていた。 知らない女の子に告白されちゃった、と困ったように相談してきた時は少し焼きもちを妬いていたりもした。
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