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読み終わったスピーチの原稿メモを破いて捨てた私はグッと背伸びをした。
「お疲れ、むっちゃん」
「あ、希子ちゃん。ありがとうー!」
声をかけてくれたのは、幼馴染の道野辺希子ちゃんで生徒会の書記をやっている。兼部として、茶道部にも入っている。
「希子ちゃん希子ちゃん、もっと褒めて」
「偉い偉い」
「あ、適当でしょ」
ほとんど無表情で答える希子ちゃんはかけていた眼鏡をクっと上に持ち上げた。
「凛太郎君、目立ってたね。恥ずかしいのか知らないけど、私が手を振ったら目をまん丸にして何度も会釈してた」
希子ちゃんはふっと笑うと肩までの柔らかい髪の毛を左にすべて集めた。
「本当。凛太郎、私と目を合わせることすら嫌がってたよ~。面白くてついにやけちゃた」
クスクスと笑う希子ちゃんは昔からお上品で清楚だった。
特に家がお金持ちとか、家柄が良いとか、そういうわけでもないのに、希子ちゃんは育ちの良いお嬢様みたいな振る舞いをする人だった。
でも、ちょっと抜けてるところもあるのが可愛い。
「凛太郎、私が姉だってあんまり知られたくないみたい」
「どうして」
「恥ずかしいんだって。それにまだ友達ともそんなに仲良くないからわざわざ知る必要もないってさ」
あははと笑い髪の毛を指ですくと希子ちゃんは不思議そうに目を丸くした。
「私だったら自慢するけどな。姉は生徒会長なんです凄いでしょって」
「あはは、しそう。でも凛太郎はそういうタイプじゃないからさぁ。それにほら、今思春期だし」
あぁ、と納得したようにうなずいた希子ちゃんはやっぱり「でももったいない」とブツブツ言っていた。
「あ、そういえば、暦がむっちゃんに話あるって言ってた」
「あ、本当?じゃあ今行ってこようかな」
「うん、行ってらっしゃい」
私は教室を出ると、同じく幼馴染の高政暦を探しに二つ隣のクラスに出向いた。
「すいませーん、高政君いますか」
「あー、ちょっと待ってー」
クラスの人が奥の席で寝ていた暦を起こして私が来ていると伝えてくれた。
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