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「多分……なんだけどね、原爆から逃げてきた家族なんだと思う。乗れる列車に飛び乗って上京した人がいたのはわりと聞く話だから」
「ああ、しかし」
「そう考えるとね、思い当たるところは多々あるんだ。そうたは戦時中の記憶がかなりの部分欠落してるし、ふうは特に大きな物音に怯える。雷が鳴ると半狂乱になる。きっと……あの子たちは原爆を見たんだ」
「武君、武君!」
「もちろん、僕だって調べてるさ。犬猫を拾うのと訳がちがうし。預かるんじゃなくて、ちゃんと引き取って育てたいと思ってるんだもの」
「君からも頭を冷やすよう言いたまえ!」
黙って話を聞いていた幸子へ、慎は八つ当たりをするように問いかけた。
「無理」幸子は即答した。
「夫婦ですもの。妻は夫に従うもの」
「ここで封建的な古めかしいことを言うのではなくて、だね」
「一蓮托生なのよ、私たち。あの子たちも含めてね。彼の願いはそっくりそのまま。私もなの」
はあ、と慎は額を片手で押さえた。
「傷付くことにならなければいいが」
「誰が」
「……私に言わせたいのか」
慎は吐き捨てるように言った。普段ならしつこく食い下がりそうな幸宏が、肩をすくめてやりすごす。
「大丈夫、伝を頼って手続きしてるところ。僕はね、あの子たちを陽の当たるところで何の心配もない家で過ごさせてやりたいだけ。何とかなるよ」
幸宏は明るく笑い飛ばした。
子犬がキャンキャン鳴き、子供たちの笑い声がする。
慎はひとり、難しい顔をしていた。
「そうだ、慎君。子犬に会っていくかい? 可愛がってくれてただろう」
慎は苦虫を噛み潰した顔をする。
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