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台風一過、武家は赤の他人同士、四人と犬一匹の奇妙な生活が始まった。
いくら戦後の混乱期で、身寄りのない子や行方知れずとなった人間が溢れていたとしても、生きている人間には必ずそれぞれに親がいて、連なる縁者がいる。
「私は反対だな」
子供を引き取ると打ち明けられた友人、尾上慎は即答した。
「君も良く知っている。ふたりとも良い子だよ」
「子供の性質をとやかく言うのではない、よく調べてからにすることだ」
「身寄りがないと言ってる」
「本当のことか」
「嘘ついてどうするの。第一、あのふたりの来歴がわかるものなんて、何もないんだ」
「名前もか」
「多分そうだろうという名前だけなら。あの子たちが持っていた服にね、名札が縫い付けてあった。所々焦げていたりすり切れていてよくわからないけど、呼び名にほぼ韻が似てるから、間違いないだろう」
「自分の名も満足にわからないというのか」
「慎君……まだ小さい子たちだよ、言わないでやっておくれよ。名前は自分の身を証すとても大切なものだ。きっとあの子たちも、自分の親に呼ばれ、大切に育ってきたはずだ。でも、戦争で全部狂っちゃったんだ。東京へ出て来て、その親ともはぐれたか、おそらく死別した」
幸宏はふたつの名札を慎の前に並べた。
衣類に縫い付ける小さな札は、ぼけて見えないところもあるが、しっかりとした字で子供の名と住所が墨で書かれていた。
「木幡君が言うには、駅でボロの中にいたふたりを拾ったと。どちらも姓が違うから、血の繋がりはなさそうだ」
「でも、同郷だな」
「うん。広島とあるだろう」
「ふむ」
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