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子供たちが寝静まった夜、むっつりと押し黙って煙草を噴かす夫のはす向かいで、幸子は編み針を動かしていた。
「何してるの」何本も吸い殻が刺さった灰皿に吸い殻をもう一本加えながら訊ねる夫に彼女は答える。
「お守り袋をね、編んでるの。首から下げられるように。旅の無事を祈って」
「上手く作れるもんだね」
「そうかな」
「うん」
「私たち……ついて行ってあげられないから、かわりに」
「……そうだね」
幸宏は編み上がったばかりの小さな袋をためすすがめつ眺めた。
その夜、川の字ならぬ四本の縦線を作り、赤の他人同士四人で身を寄せ合って眠った。
思えば妙な縁が取り持って出会った者同士だった。
子供たちは生地を離れ、隣にいた者同士、手を取り合ってここまで生きてきた。
幸宏と幸子も、全く重ならない人生を過ごしてきたのに、今は夫婦として共に歩んでいる。
幸宏は、最初は好奇心から子供たちと関わったのだろう、けれど、今は心の底から別れを悲しんでいる。手元においておきたくても、彼らが本来生きる道があって、戻そうとする力が働いているのだとしたら、それが神や運命というものなら、逆らうことはできない。
駅には来てほしくないと言ったふたりの希望通り、幸宏と幸子は玄関先で子供たちと別れた。
迎えが待つ中、「じゃあ」とぺこり、頭を下げた少年と、うつむいたままの少女をこわい顔で見守り、「お預かりします」と促す大人に委ねた時、「待って!」と幸宏は大声を上げた。
ふたりの手をひったくるように引っ張って自分の元に引き寄せ、服の下に隠されたお守り袋を引っこ抜いた。その口を開け、彼は小さく折り畳んだ紙片をそれぞれ差し入れ、再び首にかけた。
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