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「いいかい?」ふたりの目を覗き込んで、言い含めるように幸宏は言った。
「もし、とても辛いことがあって、もうだめだと思ったら、僕を思い出して。ここに帰っておいで。大人が東京へ充分来れるだけのお金を入れたから。余程のことがない限り、足らなくなって途中で降りなきゃならないことにはならない」
「熱海や……大阪までしか行けなかったら、どうするのさ」問う少年の声は震えていた。
「決まってる、連絡しておいで。メモに電話番号と住所も書きつけてある。いつでも迎えに行く! でもね、それは最後の最後の手段に取っておくんだよ。できる限りのことは自分でするんだ。けど……切羽詰まったら」
「ううん、行かないもん」少女は涙声で答えた。
「先生のお嫁さんになれないなら、どこで暮らしても一緒だもん。だから帰らないもん!」
幸子の隣で尻尾を振っている子犬を一瞥して、くるりと背を向けた。さよなら、と言って、わんわんと、犬が鳴く声を後にし、子供たちはそれぞれの帰途についた。
もう二度と、あの子たちが我が家で暮らすことはない……。
夫と妻は、しばらく立ち尽くしたまま動けなかった。
犬は幸宏の足元でとぐろを巻き、ふん、と鼻を鳴らす。
「さっちゃん」
ようやく口を開いた幸宏は、ふたりが去った方から目線を外さなかった。
「なあに」
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