【16】苟且

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「僕、本当にあの子たちの親になりたかったんだよ、親族相手に戦ってもいいと思ったんだ」 「うん」 「皆に言われた、妙な同情を抱くのは勝手だけど、早く自分達の子供を作れ、子供がいないからあの子たちに肩入れするんだと」 「言いたいこと、わかってる」 「僕は……」 「時期が来たら、許されたら、授けられるのが子宝でしょ。まだ私たちにはその時が来てないだけ。でも、あの子たちは違うのよね」 「さっちゃん」 「ね、あなた」 「……うん」 「お義父様から、医者には向かないって言われたそうだけど。私はね、ちょっと違うと思うの。本当はね、適性があるの、でもね、あなたは人に肩入れするのが好きなのよね。接した人全てに同じように力を尽くしてすり切れる。人が好きすぎて巻き込まれすぎてしまうんだわ。あなたが潰れてしまわないように……止めろとおっしゃったのね」 そんなこと、と言って。幸宏は足元の小石を蹴った。 子犬は下げていた頭を上げ、鼻をうごめかす。 「あなた、これから仕事が待ってるんでしょ。出なくていいの?」 「うん、あるにはあるんだけど……いいや、今日はサボタージュで」 幸宏はうんと背伸びした。 「もう、だめよ、お仕事、行ってらっしゃい」 「やだよ」ぷいっと顔を背け、口元をぷうと膨らませる。 「ほら、こいつも休め、って言ってるし。散歩に行きたいんだよ、な?」 犬の頭を撫でながら、彼は呼んだ。 「コロ」と。
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