第一話 浦島太郎

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 『物語の休憩所』と呼ばれる世界には、二つの大陸がある。大陸に正式名称は存在せず、それぞれ東側と西側に分かれているため、東洋と西洋、と住人たちからは呼ばれていた。  二つの大陸を行き来するために作った中央大橋では、現在利用者は一人もいない。それは数年前に東洋に一つの大きな問題が発生したからなのだが……それはまた改めて語ろう。  東洋の中心にあり、たくさんの人々から作られた物語を管理する東洋物語館。それは紅い屋根が目立つ中華風の建物だ。  館がある東洋では、とある別世界の東洋人が創り出した物語の登場人物たちが住んでいる。例をあげればきりがないが、有名なところでは桃太郎や三匹のお供たちや、七夕物語の彦星と織姫などだろう。彼らは物語が完結した瞬間、こちらの世界に来て、心身を休ませるためにこの世界で暮らす。  午後の日差しが窓から射し込んでいる東洋物語館の一階廊下。そこは人ひとりいない、静かな空間であった。その場所を琥珀という少年はウロウロと歩いていた。  どうしよう、と琥珀は不安げに呟く。  彼は両手に結構な量の書類を抱え込んでいた。これからこの書類を持ったまま、外に行かなくてはいけないのだ。  ――だが。 (……玄関に着かない)  足を止め、ふう、と息を吐く。こんな時に限って人が見つからないのは何故だろう。  琥珀は困った様子だ。しかし顔の右半分が琥珀色の前髪で隠されているため、表情が分かりにくい。  顔をよく見れば日に焼けていない頬は餅のように柔らかそうで丸く、幼いと分かる。せいぜい十五、六歳ぐらいだろうか。  顔に似合わない落ち着いた色の着流しに、色素の薄い上着を羽織っている。だが胸元や腕に水晶や勾玉のついた装飾品を、これでもかというほど身に付けていた。彼がそれらの品を身に着ける理由を知らなければ、質素なのか派手好きなのかよく分からない趣味をしていると思うだろう。
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