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レイフはクローゼットを開けるとネクタイを外した。ため息をついた。
レイフは14歳の時に母親を亡くしてから一人で生きてきた。そしてこれからも。そのはずだった。
マックスが居座るまでは。
マックスが来てから家の中の様子がドンドン変わって行く。
まず、家具が増えた。テレビの横に、マックスがDVDを置く棚が欲しいと言ったので買った。マックスが好きなワインの棚もキッチンに買った。
マックスの部屋にテレビも買った。マックスがパソコンとプリンターとパソコンデスクを買ってきた。いや、厳密に言えば、ニールが買ってきた。ニールは、「ビディ警備会社」の社長になったマックスの秘書だ。
リビングにピアノが搬入された時は、さすがにレイフも怒ったが、マックスに言いくるめられた。
レイフは、二階のミーティングルームに入って念の為に盗聴器などが無いか確認した。
昔、クローゼットだった場所を何も無い状態にして防音壁にした。折り畳みのテーブルと椅子があるだけで窓も無い。
扉口に立って見渡すだけで、盗聴器の有無が確認できる。
玄関のチャイムが鳴った。
レイフはリビングに降りて行った。
マックスがレイフより先に玄関の扉を開けていた。
ムーニーは十代の高校生にしか見えない女の子だ。今日も髪を左右に分けて束ね、ミッキーマウスの真っ赤なトレーナーにダボダボのデニムを履いていた。
「あれ?」
ムーニーはマックスを凝視した。
レイフはムーニーが何かを言う前に、二人の間に入った。
「ムーニー、あの、とりあえず上へ」
マックスはレイフの肩越しにムーニーに話かけた。
「こんにちは、俺先月からここに居候してるんだ」
ムーニーは、言葉も無く、ただレイフとマックスの顔を見つめていた。
「とにかく、上へ」
レイフはムーニーの背中を押すと、急いで階段を上がらせた。
「マックス、誰か来ても出るな。居留守を使え」
「何で?」
「今からムーニーと話をするんだ」
マックスはしばらく考えて
「分かった」
と、ニヤニヤしながら言った。
レイフは、マックスが何か誤解しているのだろうと思った。
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