第1章

4/24
前へ
/141ページ
次へ
レイフはクローゼットを開けるとネクタイを外した。ため息をついた。 レイフは14歳の時に母親を亡くしてから一人で生きてきた。そしてこれからも。そのはずだった。 マックスが居座るまでは。 マックスが来てから家の中の様子がドンドン変わって行く。 まず、家具が増えた。テレビの横に、マックスがDVDを置く棚が欲しいと言ったので買った。マックスが好きなワインの棚もキッチンに買った。 マックスの部屋にテレビも買った。マックスがパソコンとプリンターとパソコンデスクを買ってきた。いや、厳密に言えば、ニールが買ってきた。ニールは、「ビディ警備会社」の社長になったマックスの秘書だ。 リビングにピアノが搬入された時は、さすがにレイフも怒ったが、マックスに言いくるめられた。  レイフは、二階のミーティングルームに入って念の為に盗聴器などが無いか確認した。 昔、クローゼットだった場所を何も無い状態にして防音壁にした。折り畳みのテーブルと椅子があるだけで窓も無い。 扉口に立って見渡すだけで、盗聴器の有無が確認できる。  玄関のチャイムが鳴った。 レイフはリビングに降りて行った。 マックスがレイフより先に玄関の扉を開けていた。 ムーニーは十代の高校生にしか見えない女の子だ。今日も髪を左右に分けて束ね、ミッキーマウスの真っ赤なトレーナーにダボダボのデニムを履いていた。 「あれ?」 ムーニーはマックスを凝視した。 レイフはムーニーが何かを言う前に、二人の間に入った。 「ムーニー、あの、とりあえず上へ」 マックスはレイフの肩越しにムーニーに話かけた。 「こんにちは、俺先月からここに居候してるんだ」 ムーニーは、言葉も無く、ただレイフとマックスの顔を見つめていた。 「とにかく、上へ」 レイフはムーニーの背中を押すと、急いで階段を上がらせた。 「マックス、誰か来ても出るな。居留守を使え」 「何で?」 「今からムーニーと話をするんだ」 マックスはしばらく考えて 「分かった」 と、ニヤニヤしながら言った。 レイフは、マックスが何か誤解しているのだろうと思った。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加