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男はオドオドしながら、入ってきた。マックスは、どことなく少し入れてはダメな人間を入れてしまった気がした。
男は、薄汚いジャケットにシャツ、ヨレヨレのデニムを履いていた。髪は短く刈っていたが、乱れていた。心なしか臭い。
マックスはリビングのソファーに座らせた。
「レイフに知らせようか?あいつ先月携帯電話を二回も壊してさ、そのたびに番号変更したんだ。バカだろ?しかもメモリーも全部消えたみたいで、誰も電話番号わかんない」
「あ、ああ…」
「名前は?」
「え?」
「名前だよ」
「名前…」
男はそのまま黙り込んだ。マックスはどうすればいいのか迷った。
「何か飲む?」
「ああ…」
「何がいい?」
「水…」
「水でいいのか?」
「ああ」
マックスはキッチンに立って、レイフに電話をした。
だが、レイフは出なかった。
マックスはコップに水を入れると男の前に置いた。
男は、コップを鷲掴みにすると、一気に水を飲み干した。
「レイフに何の用?」
「あ、いや…会いたくて…」
マックスは益々どうしていいのかわからなくなった。どう見ても怪しい。
「どういう友達?」
男は、黙ってポケットから財布を出し、名刺を取り出した。
マックスは名刺を受け取って見た。レイフの店の名刺で、裏にここの住所と、おそらく昔の電話番号が書いてあった。レイフの筆跡だと思った。
レイフがここの住所を教える人間となると、親しい人間に違いない。
「店に電話してもいないって言われたから…」
マックスは名刺を男に返した。
男が財布に名刺をしまう時に、マックスが財布の中を覗くと、札は何枚か入っているようだった。お金が全く無いわけではないようだ。
「水を…もう一杯もらえないか?」
「いいよ」
マックスはまたキッチンから水を持ってきた。
男はまた水を飲み干した。
それから、ゆっくりと立ち上がると
「あの、やっぱりいい…」
と、言って扉口に向かった。
「待ってなよ、もう一度電話してみる」
「あ、いい」
男はそう言うと、出て行った。
マックスは男の後ろ姿を見送った。
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