第1章

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男はオドオドしながら、入ってきた。マックスは、どことなく少し入れてはダメな人間を入れてしまった気がした。 男は、薄汚いジャケットにシャツ、ヨレヨレのデニムを履いていた。髪は短く刈っていたが、乱れていた。心なしか臭い。 マックスはリビングのソファーに座らせた。 「レイフに知らせようか?あいつ先月携帯電話を二回も壊してさ、そのたびに番号変更したんだ。バカだろ?しかもメモリーも全部消えたみたいで、誰も電話番号わかんない」 「あ、ああ…」 「名前は?」 「え?」 「名前だよ」 「名前…」 男はそのまま黙り込んだ。マックスはどうすればいいのか迷った。 「何か飲む?」 「ああ…」 「何がいい?」 「水…」 「水でいいのか?」 「ああ」 マックスはキッチンに立って、レイフに電話をした。 だが、レイフは出なかった。 マックスはコップに水を入れると男の前に置いた。 男は、コップを鷲掴みにすると、一気に水を飲み干した。 「レイフに何の用?」 「あ、いや…会いたくて…」 マックスは益々どうしていいのかわからなくなった。どう見ても怪しい。 「どういう友達?」 男は、黙ってポケットから財布を出し、名刺を取り出した。 マックスは名刺を受け取って見た。レイフの店の名刺で、裏にここの住所と、おそらく昔の電話番号が書いてあった。レイフの筆跡だと思った。 レイフがここの住所を教える人間となると、親しい人間に違いない。 「店に電話してもいないって言われたから…」 マックスは名刺を男に返した。 男が財布に名刺をしまう時に、マックスが財布の中を覗くと、札は何枚か入っているようだった。お金が全く無いわけではないようだ。 「水を…もう一杯もらえないか?」 「いいよ」 マックスはまたキッチンから水を持ってきた。 男はまた水を飲み干した。 それから、ゆっくりと立ち上がると 「あの、やっぱりいい…」 と、言って扉口に向かった。 「待ってなよ、もう一度電話してみる」 「あ、いい」 男はそう言うと、出て行った。 マックスは男の後ろ姿を見送った。
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