煙突

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 母は、不思議なひとだ。  赤毛が似合う美女だというのに、竹を割ったようなサッパリとした男前な性格をしている。  家事はとんと苦手だが、外でバリバリ働くキャリアウーマン。  何でも道筋を立て、論理的に思考するのが彼女の基本スタイルである。  それなのに、なぜか、幽霊や物の怪といった非科学的な存在を信じる。  かといって、そういった人ならざるものが視える体質ではないようだ。  むしろ、仲間と噂の心霊スポットに出かけて行ったものの、自分だけが何も感じないという、すこぶる鈍い感覚をしている。  横では友人たちが、何かに怯えてギャーワーと騒いでいても、ひとりで置いてけぼりを食らうタイプだ。 「うむ。以前、知り合いの霊能力者には『おまえは守りが強いんだろ。仏様か地霊の加護とかの』と言われたことがある。私自身は、特に思い当たる節はないのだがな」  と、さも自然に首を傾げるあたり、我が母ながら大物と認めざるを得ない。  そんな羨ましい体質だからこそ、非科学的な存在を検証したいようだ。 「証明できないからといって存在しないとは断言できないぞ。いつか是非とも、この目で拝んでみたいものだ」  だから、視えなくとも縁はある。  これは、そんな母が体験した話のひとつ。
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