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大学時代。
サークルの先輩が、教えてくれた噂が始まりだった。
その先輩を仮に、矢島(やじま)と呼ぶことにしよう。
どうやら、母はその先輩の名前を忘れたらしい。
彼が、高台にあるアパートへ帰る途中。
毎日、上り下りする坂道から見える風景で、一点だけ気になる場所があった。
街の中からのびる高い煙突。
それだけなら、特におかしいとは思わなかったが。
ごくまれに吹き出す煙は、白だったり黒だったり、赤だったりする。
火葬場か、ゴミ焼却場か、銭湯か。
知り合いを手当たり次第に訊ね歩くと、偶然にもゼミ仲間が地元に伝わる噂を教えてくれた。
その煙突のある施設は、銭湯だったらしい。
商売をしている内は何の問題もなかったが、経営難で廃業したあと、取り壊しもせずに建物だけが残った。
人々の興味が薄れ、夜な夜な忍び込む若者が増えてきた頃、異変が起きる。
暇つぶしに侵入した人間が行方不明になった。しかも、ひとりやふたりの話ではない。
肝試し気分で入り込み、探索中に姿が見えなくなる。それが共通のパターンだった。
ことが発覚する度に、警察は行方不明の捜索に乗り出すが、いまだ誰も発見されていない。
矢島先輩が聞いた話によると、その銭湯は煙突の真下、ボイラーには決して辿り着けないようだ。
レンガの囲いで塞がれていて、中には入れない。誰かが何らかの理由で封印したのだ。
そこに行方不明の若者たちは閉じ込められ、燃料にされたことで絶命している。
日によって煙の色が違うのも、死体を燃やしていたからだ。
相手は、火葬場のようなプロじゃない。人体を燃やし尽くす温度調節なんて知るはずもない。
だから、日によって煙突から出る煙の色が違う。
――――今夜、行って確かめてみないか?
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