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時折、周防先輩は謎の体調不良に見舞われ、挙動不審な言動をする。
講義中、唐突に倒れることもあったようだ。
同じ高校だった学生から噂は広まり、あっという間に特定の人物しか寄りつかなくなる。
母のように、周防先輩の人柄だけを見る人間か。
矢島先輩のように、底の浅い好奇心のみで探ってくる人間か。
周防先輩も、最初は丁寧に断っていた。
霊感があるかどうかの真偽はさておき、噂が定着したなら不快な思いをしたことは、これが最初じゃないはず。
それでも、自分勝手な連中は食い下がるもので。
周防先輩は渋々と誘いを受けるしかなかった。
目的地は、あっさり見つかる。
サークルの飲み会のあと、件の銭湯跡に辿り着いた。
参加者は、先輩たちと母、他にふたりの仲間の五人だった。
敷地内は雑草がのび放題。
痛んだ壁は至るところがひび割れ、落書きに汚れている。
夏の夜だったこともあり、虫の音と風に揺れる草花が昼間とは違う雰囲気を醸し出す。
もちろん、矢島先輩の目的はボイラー室の発見だった。
どう探索するか思案する最中、すでに周防先輩の顔色はよくない。
――――とてもじゃないけど中には入れない。
そう主張する彼に、矢島先輩は明らかに不満を覚えた。
無理に引き込んでおいても良心が咎めることもなく、今さら往生際が悪いとまで罵られる。
そこまで言われたら母も黙っていられない。
本物の心霊スポットならこうなることも予測ずみだったはずだ。
まさか、単なる冷やかしで周防先輩を呼んだなら失礼にもほどある。謝罪しろと言ったら、もはや後の祭りだった。
当然、矢島先輩は激怒し、仲間ふたりと共に施設内へ入っていく。
母と周防先輩は、玄関の前で待たされる羽目になった。
引っ込みがつかなかったとはいえ、個人的には矢島先輩が少し不憫だった。
お門違いの同情をしてしまう中、母はとんでもないことを口にする。
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