煙突

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「……今でも謎のままだが、矢島は何故あんなにも依怙地になっていたんだろうな?」  不思議そうに首を傾げる彼女の仕草には、心底あきれるしかない。  娘の私でさえ、気付いたというのに。  きっと、彼は母にアピールしたかったのだ。  周防先輩を道化(ピエロ)に仕立てて、未知の存在に対しても動じないタフな男を演出したかったのかもしれない。  そんな一計を案じたのも、矢島先輩は多大な勘違いをしたのだろう。  周防先輩にしたら、いい迷惑だ。勝手に母の彼氏候補と勘違いされ、なかば強引に肝試しに誘われたなら、一番の被害者は彼である。  ちょっと考えを巡らせば誰だってわかりそうなものなのに。  母はオカルト的なものを知ることより、まず他人の機微について理解するよう努力すべきなのでは?  もはや、指摘したところで無意味っぽい結論に到達した頃、当人がぽろりと呟きをこぼした。 「そんなことより。後は、不可解なことだらけだったんだ」 「……どんな風に?」  続きを促しつつも、矢島先輩に同情を禁じ得ない。  淡い恋心を、そんなこと呼ばわりされた。  外にいる分には、周防先輩の具合も悪化せずにすんだ。  中に入っていったサークルメンバーを待つ間、世間話をしながら、彼は銭湯にまつわる情報をぼやく。  母も特に深い詮索はせずに、相槌を打っていた。  たぶん、こんな会話をしていたんだと思う。 「……ここは一種のパワースポットみたいだ。かなり弱くなってるけど」 「なんだと? 今、流行りの神社仏閣巡りのことか?」 「ちょっと違う。そんな神聖な力じゃなくて……人々が活気にあふれてて、街が栄えていた様子。このあたりは、その力がまだ残ってる」 「エネルギーが残ってるなら、いいことなんじゃないか?」 「うーん。ひとによるかな。俺にとっては人混みの中にいる感じ。ザワザワして落ち着かない」 「それが都市伝説の原因なのか?」 「どうかな。ここにいるひとたちは、そんなに悪質なものじゃない。毎日を懸命に生きて、その記憶が残像として灼きついてる」  玄関の奥にある暗闇をじっと見つめる周防先輩は、それ以上は口を開かなかった。
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