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俺には二つ下にもう一人、妹がいる予定だった。
だけど、この世に産まれることは無かった。
両親はそのことを少しも隠すようなことはなく、もちろん茜も知っている事実だった。
「…ふふ。別にそのことを隠してたからって、責めたりしないよ」
俺のあまりにも真剣な表情に、美樹の方が先に柔軟な態度を取った。
俺ははまた、大事なことを隠していたと美樹に責められると瞬時に思ってしまったけど、
美樹に気にする素振りはなく、微笑まれてしまった。
「…姉が、無事に産まれていたら自分はこの世にいなかったかもしれない。でも、姉妹は欲しかったって、複雑な気持ちを教えてくれたの」
「…いつの間にそんなやり取りしてんの」
…女のお喋りは驚くことばかりだ。
「…あと、それとね?
もう一つ理由があるみたいなんだけど…
知りたい?」
美樹は急ににこにこと勝ち誇るような、得意げな顔を俺に見せてきた。
俺はベッドに横になりながら「なに?」と聞いて、美樹の髪に触れた。
「…あのね。茜ちゃん、
最近料理に目覚めたんだって。
それで私に教えて欲しいみたい。
……彼氏に、
作ってあげたいんだって」
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