第3話

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「…………では、さやか先生。私はこれから社に戻りますので。少し遅くなるので夕飯は悠太君と先に食べていて下さい。悠太君、宜しくお願いします」 「ん~~~。分かった、高井気をつけてな。行ってらっしゃい」 「はい、大丈夫ッス!高井さん、行ってらっしゃーい」 アホの兄弟に手を振られながら家を出る。自分の家がこんなに賑やかだったことがあっただろうか。 騒がしいのは苦手な筈なのに、自然と頬が緩んでいる。たまには賑やかなのも悪くない。 才加が極度の寂しがり屋だと聞いてはいたが、三日間一緒にいてそれが誇張でも何でもない事を身を以て感じることになった。 まるで母親を探す小さな子供のように俺の後をついて回り、目が合うとへらりと笑う。 出かける時はちゃんと言うから心配するなと伝えれば、いっときは大人しくソファーに座ってテレビを眺めたりしているのだが、気がつくと側にいるのだ。 特に纏わりつく訳でも無く、ただ黙って側にいるだけ。いつもの饒舌さは影を潜め、待てをしている犬のようにじっとしている。 そしてそれは自分でも無意識の行動らしく、時々ハッとしてはしょんぼりとソファーに戻る姿が妙に可愛らしい。 この三日、恋人と一緒にいるというよりは寂しがりのペットを可愛がっているような気分だった。 何だか当初の予定とは違う方向に進んでいるのは、気の所為だろうか。 いや、まだ修正はきくはずだ。一ヶ月の間に才加を手に入れたい。その為には、俺を恋愛の対象として認識させなければならなかった。 これが思った以上に手強い。才加は決して鈍感ではないのだが。 『なあなあ、高井~。お前本当に元気だなぁ。このエロ親父め』 …………だから、違うって。
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