第2章

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「…………はい。大丈夫そうですね。確かにお預かりします。今回はこちらの急なお願いを聞いて下さって、ありがとうございました。正直間に合うか心配していたんですが…………黒田先生はどこぞのアホとは違ってしっかりされているんですね?」 …………どこぞのアホ?え?誰の話だ?今のは聞き間違いだろうか。 目の前に爽やな笑みを浮かべて立つスーツ姿の男前をまじまじと眺める。 イケメンスーツの高井さんは、今回盲腸で誌面に穴を開けてしまった売れっ子漫画家の担当編集者だ。 きっと遣り手の編集者なんだろうに、売れない新人漫画家の俺相手にも丁寧なひとだ。 高身長に、端正な顔立ち。笑顔がいつも爽やかで、引き締まったスラリとした体躯の持ち主だ。もう少し年齢が若ければ、俺の漫画のモデルにお願いしたいくらいだが、少女漫画の相手役にしては年齢が上すぎる。 確か、俺より四つくらい上じゃなかっただろうか。 高井さんはいつもピシッとスーツを着こなしていて、彼との打ち合わせでもボサボサ頭でジャージの自分が恥ずかしくなる。…………まあ、変える気は無いけれど。 「…………黒田先生?どうかしましたか?」 「あっ、いいえ、すみません。ぼんやりしてしまって」 いつだったか、口下手な俺は話題に困って彼のスーツを褒めたことがあった。会話の糸口になればと思っていたが、まるでモデルのようにスーツを着こなす高井さんを羨ましかったのは本当のことだ。 その時の彼は珍しく苦笑して、これは量販店の吊るしのスーツですよ、と言っていた。 …………嘘じゃないか、それ? いつ見ても、高級ブランドスーツにしか見えないんだけど。 顔が整っているひとは、もしかしたら俺の高校ジャージもお洒落に着こなしてしまうのかもしれない。
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