第1章

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いつ切りに行ったかもわからないモサモサ伸びきった髪に、外に出る日の朝にしか剃らない無精髭。 まあもともと毛が薄いタイプだから、あんまりワイルドな感じにはならないんだけれど。今だって、触れたらざらっとするくらいには生えている筈だ。 おまけに青白い顔色で、見るからに不健康そうな貧弱体型。………こんな奴に、誰が欲情する? 女の子でもあるまいし、あり得ないことこの上ない。 「…………赤川、近いんだけ…………んっ、んうっ!!?」 絶対に勘違いだと判定を下した直後の出来事だった。俺の間抜けな声は赤川の口内に吸い込まれ、驚いて開いたままの自分の口の中に、赤川の熱い舌が滑り込んでいる。 …………嘘だ。ナニコレ。 「んあっ、………ふ、ちょっ…………はあっ」 …………昔誰かが言ってただろ。ファーストキスは、レモンの味じゃないのかよ。いや、そんな馬鹿な話を本気で信じていた訳じゃ無いけれど。 二十三歳にして初めて経験した深いキスは、ほろ苦いビールとトマト味。 …………ほのかにバジルの香り。 …………あり得ない。こいつ、酔うとキス魔になるのか。八年目の衝撃的新事実だ。
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