第1章

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「あのっ、荷物の中身は……、兄貴が用意したの?」 聞いても無駄だとわかってはいたけれど、聞かずにはいられなかった。 「そうだよ、俺は玄関先で待ってたからね……」 「そっか……あの変態兄貴め」 小声で悪態をつく。 あの下着も兄貴が用意したことに、グッとひそめた眉。俯いていたため、ニヤリ口角をあげていたコージに気付かなかった。 コージは静かにそっと屈みこんで、下から私を覗きこむような仕草をする。 「何? 何が聞きたいの?」  「べ、別に……」 ははっと笑って誤魔化したつもりだったのに、 「あぁ、そっか、もしかして、今はいてるピンク色の下着のこと?」 核心をつかれて、言葉につまる――、っていうか、その発言セクハラだよね! 「や、やっぱり見た?」 って、洗面所に置いてあったということは、コージが置いてくれたんだろうけど…… 「もちろん♪鞄から出した時、驚き過ぎて、二度見しちゃった♪」 「ギャボッ!」 変な声が出た。 「俺、誘惑するつもり?」 「ま、まさかっ!」 恋愛初心者の私にそんなスキルがあるはずがない!アタフタする私に、クスクスと余裕の笑み。なんだか悔しくて、涙目で抗議しようとしたら、 「ごめんごめん、冗談が過ぎたね……心配しなくても、これは実尋のお兄さんの、俺に対する嫌がらせだよ」 「嫌がらせ?」 「そっ、わざと刺激的なのを用意して俺を試してるんだよ」 「試す?」 何を? わからない言葉が次々と出てきて、私は混乱していた。 「俺が実尋に手を出すかどうかのね」 「……」 「お兄さんの逆鱗には触れたくないから、今日は何もしないよ」 「……それって、兄と約束したってこと?」 「まっ、そういうことになるかな」 「……」 それって……どうなの? なんか、めっちゃ、恥ずかしいんですけど……脱力しそうな私に、 「身体が冷える前に、ベッドに行こう」 と、背中を押され、私たちは寝室へと向かった。
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