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カザンが子どもの頃のように無邪気(むじゃき)に笑っていた。この闘いを勝利で終えるのがうれしいのだろう。タツオは満身創痍(まんしんそうい)だ。どう見ても、この大講堂でカザンの圧勝を疑う者はいないだろう。
この男とは幼稚園にあがる前から友人だった。どうしてもうまくできないひらがなの練習を泣きながら諦(あき)めずに続けるカザンを思いだす。サイコとともに、最後までつきあってやったこともある。「ぬ」が書けたときは3人で手をとり跳(と)びあがったものだ。カザンの初恋の相手も知っている。同じ年の皇位継承者・瑠子(るこ)さまだ。瑠子さまは皇族らしく、好意に気づいても上品に無視していたけれど。カザンはいまだに苦い野菜が苦手だ。ピーマンやゴーヤだけでなく、根の近くがすこし苦いといってホウレンソウも食べられない。
東園寺(とうえんじ)崋山(かざん)は悪い男ではなかった。もうすこし別な形で出会っていれば、ほんとうの親友になれたかもしれない。カザンが幼い頃夢見た通り、ふたりで日乃元と進駐軍の未来を担(にな)えたかもしれない。輝かしい祖国の未来を。
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