119(承前)

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「やったー! 東園寺派のやつら、ざまあ見ろ!」  跳びはねながら叫んでいるのはクニだった。「観の止水」が発動しているので、背後で叫ぶクニの動きが手にとれるように察知できる。空気がおかしいのは、ジョージのほうだった。血相を変えて階段を駆けあがり、こちらに向かってくる。普段は冷静な混血児が叫んでいた。 「審判、ぼんやりするな。ドクターを呼んで」  カザンは崩れ落ちたときと同じおかしな形に手と足を曲げて、静かに横たわっている。おかしいあれだけ激しく動いていたのに、胸も腹も動いていない。審判の少年が駆けつけた。胸に手を当ててから、手首の脈を診た。顔色を変えて叫ぶ。 「軍医殿、早く」  そのときタツオに完全な体力の限界が訪れた。「観の止水」の銀の球体が夕暮れの虹のように淡く薄れてく。タツオは立っているのも困難で、その場で両手両足をついて四つんばいになった。  クニが背中を叩いてくる。
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