第1章:第七領地

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「ビョルン、何度言えばわかるんだ」 白髪混じりの父が棒を片手に頭を抱える。その隣で表情を曇らせる4人の兄たちの視線が痛い。 「いいか、お前は宰相である儂スヴェンの子だ。王族の誰もに平等に接しなければならない。誰か一人に仕えるなど……王以外には絶対あってはならない!」 殴られたせいで口の中がサビ臭い。 「……あいつは、ボクの友達です。あいつだってそう言って……」 「王とあの女が再婚する前だったからこそそれが許されたのだ。どうしてわからない?理解しようとしない?」 「ボっ、ボクは……だって」 「……もういい」 暫く、この部屋に閉じこめておけと言い残して父は部屋を去った。 「諦めろビョルン、その方が楽だ」 「クリストフェル兄さん……」 「立場をわきまえろ。お前は、まだ子どもなのだから」 「アルヴィド兄さん」 一言ずつ残して上の兄さんたちがいなくなって、あとは4つ上の双子の兄さんたちだけになった。 「ヘンリク兄さんとエリク兄さんも、そういうの?」 「「……」」 兄さんたちは互いに顔を合わせると、床に座り込んだぼくのそばにしゃがむ。 「実を言うと僕達は」 「父さんの意見に反対」 ホッと息をつこうとしたのに。 「そんなんじゃ八方美人って言われても仕方ないしね」 「1人1人分かれて仕えていたほうが効率的だ」 一気に奈落の底に突き落とされた気分だ。 ボクはただ、エーヴェルトとずっと友達でいたいだけなのに。 「どうしてって顔だね、ビョルン」 「こんな家に生まれたのだから、そろそろ腹を括れ」 ついに二人も出て行った。 「ビョルンにいさま?」 そろそろと入ってきた小さな妹を見上げる。 「……ないてるの?」 「……っ」 みっともないと呆れられても仕方ない。 妹の前で声を上げて泣く兄なんて。 「どこかいたいの?」  「うん……セルマ」 辛くて、悲しくて。 つい妹にそれをぶつけてしまう。 「ボク、エーヴェルトと、もう…っ、普通の友達でいれないって。どうしてかなぁ、わからないよ……っ!」 床に座り込んでえぐえぐと泣きべそをかくボクの頭に、小さな手のひらがふわりと乗せられる。 「ビョルンにいさま、いいこいいこ」 「セル、マ?」 「アタシは、ビョルンにいさまのみかただよ。だってアタシも、エーヴェルトのことすきだから」  「っ…ぇ!」 うわぁぁんと、声を上げて泣いた。
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