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よろしくねと言って、西田がニコニコしながら健太の返事を待っている。これはどうしても答えないといけない雰囲気だ。
健太は内藤の方を窺うように見た。内藤は難しい表情のまま西田のことを睨みつけている。
健太はため息をひとつつくと、西田へ向かって久米健太ですと答えた。
「久米、健太くん。ねえ、健太って呼んでもいいかな?」
「――――え」
「西田!」
内藤が凄みをきかせても、西田は全く気にしていない。それどころか、内藤の横からのぞき込むようにして健太へ笑いかけた。
「健太?」
「西田! そろそろ決勝だろ。行くぞ!」
「ええーっ、まだ時間あるだろ? 俺、健太ともうちょっと喋りたいんだけど」
そう言いながら、西田がさりげなく健太の手を取ろうとする。だが、その手はもちろん内藤によって阻まれた。
「西田」
「なんだよ内藤、さっきから。ちょっと話すくらいいいだろ? 減るもんじゃなし」
「…………減る」
「え?」
「なんでもない。マネージャーに用なら西條がいるだろ」
内藤が西條へ話を振ると、ことの成り行きを見ていた西條が、あからさまに迷惑そうな顔をした。
「えーっ、俺は健太がいい。西條くんって、なんか怖いから嫌だ」
「俺も西田は面倒くさいから嫌だ」
西條も西田も、お互い嫌だと言ってはいるが、妙に気が合っているようにも見える。
「ていうか、なんで内藤が健太のことを隠すわけ?」
「別に隠してなんかない。久米は忙しいんだ」
「ふうん……」
納得がいかないのか、怪訝な表情で内藤と、そしてその後ろに隠れている健太とを西田が見比べる。
初めて口をきく相手から、こうしげしげと見られたことなど、もちろん健太にはない。遠慮のない視線がとても居心地悪くて、健太は無意識に内藤のTシャツの裾を掴んだ。
「あ」
「なんだよ」
「……いや、なんでも…………ああ、なるほど。そういうこと」
西田が意味深に頷く。
「用がないなら行くぞ。早く来いよ、西田」
「はいはい、わかったよ。あのさ健太、俺これから決勝なんだ。応援してくれる?」
「え?」
応援してくれる?なんて言われても、西田は他校の選手だ。しかも、内藤と優勝を争う相手でもある。
これから決勝に出る本人を前にして「頑張るな」とも言えなくて、健太が返事に詰まっていると、西田がさらに口を開いた。
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