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西條の言葉に健太は何も言うことができなかった。
内藤が無茶をしたのは、実は健太のせいでもある。夏が終わるまでと時間の限られた健太のために、彼はあんなに頑張ってくれていたのだ。
つい俯いてしまった健太の手を西條が掴む。
「行こう、久米。ここでいろいろ言ってても泳ぐのは内藤たちなんだしさ。俺たちは観客席からあいつらに気合を入れてやらないとな」
これから決勝に出場するのは内藤だけではない。今年が最後になる三年生も、そのほとんどが決勝に残っている。
「…………俺さ、今日、有吾がインハイ出場決めたらガツンと言ってやりたいことがあるんだ。だから俺も応援頑張る」
「西條くん」
「ここまできたら俺らには見守ることしか出来ないし。だから、あいつらが泳いでるところ、ちゃんと見ておかないとな」
健太の手を握る西條の手が微かに震えている。
これから始まる決勝レースに向けての緊張からなのか、それとも別の理由からなのか、西條の心の中は健太にはわからない。
だけど、部員みんなが悔いの残らない泳ぎができればいいのにというところは健太も西條も同じ気持ちだ。
健太は西條の手をぎゅっと握り返すと「行こう」と言って、 観客席へと足を向けた。
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