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「西條くん」 「気分、悪い? 顔色が良くない」  帰る準備をしていた西條が、もう一度健太の隣に腰を下ろした。  心配そうに顔を覗き込んでくる西條へ大丈夫だよと健太は答えたが、夏休みに入ってからの無理が祟ったのだろう、あまり体調が良いとはいえない。 「久米」  いくら健太が大丈夫だと言ったところで、無理をしていることなど西條にはお見通しだ。咎めるように名前を呼ばれて、健太は観念しましたとばかりに弱々しく眉を下げた。 「…………ごめん。ほんとは大丈夫じゃないんだ。もうちょっとだけ座っててもいいかな?」 「誰か呼んでこようか?」 「うん。それじゃあ……」  自宅から誰か迎えに来てもらうよと健太が言うと、西條が少し驚いたように目を見開いた。 「え、でも……久米はそれでいいのか?」  水泳部のマネージャーを始めるにあたって、部活中に少しでも体調が悪くなったらそこで部活は辞めること、と健太は両親と約束をしている。  つまり、体調がよくないといって健太が自宅へ連絡を入れるということは、このまま水泳部のマネージャーを辞めてしまうということだ。 「うん、まあ仕方がないかな、とは思ってる。本当はあともう少しみんなと一緒にいたかった。だけどこのままマネージャーを続けても、かえってみんなに迷惑をかけると思うんだ」 「久米」 「あのさ、みんなには俺は用事があって先に帰ったとか言っといてくれないかな」 「久米……」  真っ青な顔色で健太が西條に笑いかける。そして、そのまま正面に向き直ると、何かを堪えるようにぎゅっと目を閉じた。 「――――まだ夏休みは終わってないのになあ。辞めたく、ないなあ…………まだ明日だって試合はあるのに。俺さ、今普通に椅子から立ち上がることもできないんだ…………情けないよね。ちょっと張り切り過ぎただけ、なのに……っ」  固く閉じた健太の目から、溢れた涙がにじみ出る。  悔しい、なんで自分の体はこんなにも弱いんだろう、なんで自分はみんなと同じようにできないんだろう………………言葉にこそ出してはいないが、内藤にも打ち明けたことのない、健太の心の奥底にくすぶっていた淀んだ気持ちが涙と一緒に零れ落ちた。
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