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「久米、久米…………」
「お、俺っ、辞めたくない。今日で終わりなんて嫌だ」
抱きしめる健太の体は、前に行った花火大会の時よりもかなり痩せていて、内藤がちょっと腕に力をこめたら簡単に折れてしまいそうだ。
薄い背中に背骨が浮き上がっているのが衣服越しでもわかる。
内藤の肩口に額をつけて、溢れてくる涙を必死で堪えようとしている健太の姿を見ていると、このまま健太のことを連れ帰ってしまいたくなる。
だが、内藤は震える健太の肩をそっと押しやった。
「内藤」
「久米、今日の昼は何を食べた?」
「――――え」
突然何を言い出すのかと、目を丸くしている健太へ内藤が笑いかける。
「昼休み、ちゃんと弁当食べたのか?」
「え……あ、その」
部で用意していた昼食の弁当が、ひとつだけ手つかずのまま残されていた。
西條に限って弁当の数を間違えることはないし、弁当にはそれぞれ部員の名前を書いた付箋が貼りつけてある。
ひとつだけ残された弁当には久米の名前の書かれた付箋が貼りついていた。
「じゃあ、今日の朝は? それだけじゃない。久米、最近あまり食べてないだろ」
確かに、ここ数日あまり食欲のなかった健太はまともに食事をとっていなかった。それを内藤から言い当てられ、健太がバツが悪そうに内藤から目を逸らす。
「あのさ、久米が俺の泳いでるところを見るのが好きで、それでちょっとでも元気になれるのならすごく嬉しい。俺も練習が辛くてもう泳げないってなっても、久米が頑張って病気と向き合ってるんだって思うと、もっと自分も頑張らないとって思えるんだ」
だからさ、と言いながら内藤が両手で健太の頬を包み込んだ。
「久米。病気なんかに負けるな。ちゃんと食べて、体作って、そして元気になってまた戻ってこい。マネージャーを辞めても、離れた場所にいても久米がどこかで元気になろうと頑張ってるんだって思うと、それが俺の力になる――――俺はそう思ってる。けど、久米は違う?」
じっと見つめる内藤の瞳に健太の顔が映っている。
健太は自分の頬にある内藤の手に自分の手を重ねて、ふるふると首を横に振った。
「健太、一緒に頑張ろう」
「――――――え、内藤? 今、名前…………」
驚きに目を丸くしている健太から内藤が照れたように目を逸らす。
だがすぐに健太の方へ向き直ると、その額にそっとキスを落とした。
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