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あくまで何でもないと言い張る西條。これ以上、西條に聞いたところで正直に話すことはないだろうと踏んだ稲木が健太へ話しかける。
「久米は、あれから体調は? 大丈夫か?」
「あ、はい。もともとあまり体力のある方ではなかったし……突然マネージャーを辞めてしまって、すみませんでした」
頭をさげる健太に稲木が「気にすんな」と笑いかける。
「インターハイ、頑張ってください。応援してます」
「おう。内藤にも言っておくよ。久米が遠く離れた海の向こうで熱い声援を送ってるってな」
「い、稲木さんっ」
「久米。そろそろ時間なんじゃない?」
「え……あ、ほんとだ」
電光掲示板に、健太の乗る飛行機の搭乗手続きが開始されたと表示されている。
健太はずっと大切に握っていた白い小さな包みを、膝の上でそっと広げた。
「なに? それ、四つ葉のクローバー?」
「うん。これね、持ってると願い事がひとつだけ叶うんだよ」
昨夜、内藤が健太の自宅まで持ってきてくれた。
願い事はひとつ。
『何年かかっても待ってるから。絶対に元気になって戻ってこい』
もちろん健太もそのつもりだ。
「それじゃあ、行ってくるね」
「…………っ、久米」
「おう、行ってこい!」
涙でぐちゃぐちゃになっている西條の背中をさりげなく稲木が支える。
そんな二人へ、健太は「またね」と言って最高の笑顔を向けた。
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