62人が本棚に入れています
本棚に追加
/351ページ
季節は春。
桜が舞い散る中。
ここ、法華津インテリアデザイン事務所に。
春風とともに久しぶりの新人がやって来る。
そいつの名前は……。
「今日からお世話になります。小鳥遊和泉です」
そう、やっぱり変わっていた……。
「というわけだ。彩華くん、後は頼んだよ!」
そう言って、その場を去ろうとする社長を俺は無理やり引き止める。
「頼んだよ、じゃない……! あんた、こいつのこと、絶対名前で選んだだろ?」
「ははっ、良いじゃないか! 仲間が増えて、喜んだらどうだ?」
「喜べる状況ですか!?」
「まぁまぁ、そう眉間にシワを寄せていては、幸せも逃げるというものだ」
「はぁ~社長……」
俺の盛大な溜め息を何処吹く風という具合に社長はその場から風のように消えていった。
うちの事務所には専属のモデルがいる。
デザイナーが作った新作の広告・宣伝のために、うちでデザイナーと一緒にアイディアを練っていく。
そして、俺のデザインを担当していたモデルが海外へ行ってしまったため、新しく担当モデルとなったのが目の前にいる彼だ。
「あの……栗花落さん、宜しくお願い致します」
彼はそう言って、礼儀正しくお辞儀をした。
「(……硬い)」
今時珍しいというのは、まんざら大袈裟な話でもなさそうだが……。
こいつに斬新などという発想があるとは到底思えない。
「小鳥遊。念のために確認しておくが、今回の企画は聞いてるよな?」
学生時代からモデルをやっており、仕事ぶりは至って真面目という噂だ。
今回の企画を知らないはずはない。
「今までにない斬新なものを、ということは聞いていますが……」
小鳥遊は硬い雰囲気を崩すことなく、遠慮がちに答えた。
「ああ。だがな、その斬新さがお前にあるとは思えない」
そう、俺が言いたかったのはこれだ。
最初から何のアイディアもなさそうなやつに構っていられるほど暇じゃない。
「それが無理なら、この仕事を降りろ」
出来ないなら、さっさと違うやつに変えてもらうのが一番手っ取り早いし、効率も良い。
だから、第一印象が悪くなろうとも俺は気にせず、はっきりと言うべきだと思った。
だが、それは早計だったのだろう。
「僕の見た目からそういったものが感じられないのは、僕の力不足だと思います。でも、出来ない仕事であれば最初から引き受けません」
俺の予想に反して、小鳥遊はまっすぐに俺の目を見据えてそう言った。
最初のコメントを投稿しよう!