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やられた。
「じゃ、じゃあ、よろしくね」
そう言って私の目の前から立ち去る彼女。
上の方で一つに結わえられた黒髪がサラサラと揺れる。
“やられた”、という呆然とした思いで遠ざかる彼女の左右に揺れる黒髪をぼーっと見つめていると、「話はついたか」と頭上から声が振ってきた。
見上げると、端正な顔が私を見下ろしている。
「時間はあるか?
明日からの仕事の打ち合わせをしたいのだが・・・」
遠慮がちな言葉遣いの割には、その無表情のせいか威圧感を感じられずにはいられない。
私の頭は自然とこくりと頷き了承の意を示す。
彼はそれを確認すると歩き出し、私はその後につづいた。
まるで、心が灰色の薄い幕に覆われてゆくような、
陰鬱な気分で。
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