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ゆっくりと離れていく、柔らかい温度。
少しずつ広がる唇の距離に合わせて、私の瞳も明るさを取り戻す。
『俺の気持ち、伝わった?』
おでこをコツンと当てられて。
『……は、はい。』
『彩星の唇に触れたかった。』
『……っ。』
部長、本当にズルい。
やっと視点が合うこの距離で、たった今の出来事をリピートさせる。
太陽の色でも、日焼けした訳でもないのに、真っ赤になっていくのが分かる頬と耳。
『次は、彩星。』
『私?』
軽く背中を押されるように、部長の腕にすっぽりと収まった。
『彩星の気持ち、俺に伝えて?』
サイドの髪を耳に掛けながら、吐息混じりで囁かれる。
身体は条件反射のように、跳ねてしまう身体。
振り向くと、熱っぽい視線。
深く絡められた指には、切ない感覚。
『そろそろ、帰ろっか。』
僅かにオレンジになりつつある西の空に背を向けて、パーキングへ手を引かれるまま歩いた。
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