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『いらっしゃい。』
数日ぶりに会った誠さん。
髪が短くなって、色も明るくなっている。
『悪い、予約してないけど空いてる?』
相変わらず大人気のここは、今日も誰かがパーティーを開いている様子。
『今日は一杯なんだよな……でも、外でもいいならどーぞ。』
誠さんがわざと歪ませた眉を、ピースと一緒に下げて笑った。
夕陽が眩しいテラス。
十字架は、あの日とは違うオレンジ色に染まりつつあって。
まだ見たことのない、〈青の十字架〉を早く見てみたいけど、きっと今日の十字架(これ)は、今日しか見れない。
そんな特別な気分になれるのはどうしてだろう。
『お待たせしました。』
店員さんが、頼んでいたカプレーゼとモヒートと、ビールを持ってきてくれた。
『あ、店長によろしく伝えてください。』
『はい。三浦様。』
2人きりのテラス。
あの日は、顔から火を吹いてしまいそうなほど、部長の1つ1つに、ドキドキした。
今も。
あれからずっと、ドキドキは止まることを知らなくて。
『部長?』
『ん?』
テラスの柵に腕を交差して、寄りかかる部長の背中に、耳をくっつけた。
『部長は、私のこと……いつから、想ってくれてたんですか?』
さっき抱きついたからって、慣れたわけじゃない。
きっと慣れることなんて、ない。
でも、私と部長の心にこの気持ちが芽生えていた日が同じなら。
気付いたのがもっと後だとしても、その気持ちの芽が、訪れていたなら。
運命みたいなものを、信じたい。
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