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唇に滲んでから、じわじわと侵入してくる塩気。
それでもなお続く沈黙は、私の瞳に映る快晴の空を一気に鉛色にしていく。
『……嫌なら、そう言って。』
『そんなこと思ってないです。』
『俺のことが嫌なら、ハッキリ言えよ。』
溜め息混じりで放たれた言葉。
『そんな訳、ないじゃないですか。』
その溜め息が空気と馴染む前に、私は即答した。
『じゃあ、なんであんなことしたの?』
『……それはっ!』
それは。
あの人は誰なの?
どうして、抱きつかれるのを避けてくれなかったの?
あんなに楽しそうに微笑んだの?
聞きたいことを言葉にしようとすると、自分の中の黒いモノがものすごく醜く形を変えていくようで。
妬いてるだけだって、分かってる。
……そんなこと、分かってるの。
だから、言葉を飲み込もうとした。
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