132人が本棚に入れています
本棚に追加
『もしもし……。』
何度もこうして話したのに、慣れることを忘れたのか、それとも出来ないのか分からないけど緊張してしまう。
『お疲れ。彩星、いま家?』
『お疲れさまです。さっき帰ったところです。』
『ご飯食べた?』
『まだ食べてないです。』
大好きな声と話すリズムは、緊張している私のことを溶かすほど甘くて心地よい。
『一緒に食べない?彩星の家で。』
『…えっ、ここで?』
『うん。何号室だっけ?』
『605ですけど…。』
部屋に響くものと同じ音が、電話越しにも聞こえてきて。
『彩星?』
インターホンのモニターに映し出されている部長の声は、電話から聞こえてきていて。
片付いてないこともないけど、お掃除したいし。
まだご飯、作ってないし。
焦るくらいなら、日頃からちゃんとしておいたら良かった。
それに…。
部長がこの部屋に入ることがあるなんて考えてなかった。
『早く開けて。それとも、画面越しに観察する趣味でもあるの?』
そんな変な趣味、ありません。
『……っと、どうぞ。』
オートロック解錠のボタンを押したのに、まだ躊躇う私が窓に映った。
最初のコメントを投稿しよう!