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『もしもし……。』 何度もこうして話したのに、慣れることを忘れたのか、それとも出来ないのか分からないけど緊張してしまう。 『お疲れ。彩星、いま家?』 『お疲れさまです。さっき帰ったところです。』 『ご飯食べた?』 『まだ食べてないです。』 大好きな声と話すリズムは、緊張している私のことを溶かすほど甘くて心地よい。 『一緒に食べない?彩星の家で。』 『…えっ、ここで?』 『うん。何号室だっけ?』 『605ですけど…。』 部屋に響くものと同じ音が、電話越しにも聞こえてきて。 『彩星?』 インターホンのモニターに映し出されている部長の声は、電話から聞こえてきていて。 片付いてないこともないけど、お掃除したいし。 まだご飯、作ってないし。 焦るくらいなら、日頃からちゃんとしておいたら良かった。 それに…。 部長がこの部屋に入ることがあるなんて考えてなかった。 『早く開けて。それとも、画面越しに観察する趣味でもあるの?』 そんな変な趣味、ありません。 『……っと、どうぞ。』 オートロック解錠のボタンを押したのに、まだ躊躇う私が窓に映った。
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