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周りの誰よりも鋭く冷たい視線。
部長の名前を呼んだのは、沙衣さんだった。
『沙衣さん……。』
咄嗟に部長との距離を広げようとしたけれど。
『彩星、離れるな。』
腰に回された腕に、一層力が入った。
『夏輝。』
小休憩を終えた花火が、また打ち上がる。
1歩ずつ近付いてくる沙衣さんの迫力に、気持ちが押し潰されそう。
部長は、私のことを好きだと言ってくれたけど……この前の屋上のことは、まだ解決していないのが現実で。
『考えてくれた?私と夏輝のこと。』
『考えたよ。すぐに答えは出たけど。』
屋上で見た2人の姿と、麻耶と行ったCarib STARで、偶然見た2人の姿。
あの日見た後ろ姿は、間違いなく沙衣さん。
ユアさんだって、思い込んでいただけで、本当は……沙衣さんだった。
心が、指先が、冷たい。
ついさっきまであった、甘く痺れる冷たさとは違う。
冷たくなっていくところから、辛い痛みを覚える。
『答えは…イエス、でしょ?』
勝ち気な沙衣さんの視線が、存在を無視されていた私と、やっといま合った。
渡さない、離れて、夏輝は私のものよ。
貴女なんかには、似合わない。
夏輝は、私の彼。
そう言葉を並べられるより、ずっとずっと……怖い。
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