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企画部の扉の前。
シルバーの長細いノブに指を引っかけて、部長が立ち止まった。
『……彩星。』
『はい。』
名前を呼んでもらえて、胸がキュッとする。
『金曜の花火大会だけど。』
『あ、はい。』
『出張が入ってさ……もしかしたら行けないかもしれない。』
『……えっ…出張……ですか。』
『うん、ごめんな。』
背中越しに聞こえた、大好きな声。
それは、私と部長がもっと遠くなっていく予感を強くするのに十分すぎるほど。
ごめんな、って言葉が突き刺さる。
終わりを告げられたような感覚。
もう一緒には居られないって、そう言われたような。
これは現実なんだって、廊下の壁の冷たさが一方的に知らせてくれる。
瀬名さんと偶然一緒にいた私。
沙衣さんと一緒にいた部長。
花火大会には、きっと行けなくて。
沙衣さんとやり直すのか、部長は考えるって言ってたな。
ズキズキでもない、息苦しい痛みに耐える。
まだ、部長のこと信じてるから。
ー信じてるからー
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