16

20/21

87人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
『比べる?』 『そう。私とその子、どっちが好きか。』 ……どっちが、好きか。 部長が沙衣さんに特別な感情があるってこと? 『比べてないよ。これっぽっちも。……沙衣、本当に終わったんだ。もう気持ちはない。』 『ウソつき。』 『ウソじゃない。』 『……よ。』 棘のある口調の沙衣さんが、突然顔を手で覆って俯いた。 指の隙間から、甲を伝う透明。 ポタポタと甲板のデッキを濡らす水滴。 『……イヤよっ!』 フワフワの髪が、海風に舞う。 『沙衣……。』 部長が困った表情で、沙衣さんを見つめていて。 『夏輝じゃなきゃ、イヤなのよ。夏輝以上の人なんか、いないのっ!』 さっきまでの迫力は風に乗って流れ、目の前にいる沙衣さんは、今にも折れてしまいそうな、憔悴した表情をしていた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加