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『比べる?』
『そう。私とその子、どっちが好きか。』
……どっちが、好きか。
部長が沙衣さんに特別な感情があるってこと?
『比べてないよ。これっぽっちも。……沙衣、本当に終わったんだ。もう気持ちはない。』
『ウソつき。』
『ウソじゃない。』
『……よ。』
棘のある口調の沙衣さんが、突然顔を手で覆って俯いた。
指の隙間から、甲を伝う透明。
ポタポタと甲板のデッキを濡らす水滴。
『……イヤよっ!』
フワフワの髪が、海風に舞う。
『沙衣……。』
部長が困った表情で、沙衣さんを見つめていて。
『夏輝じゃなきゃ、イヤなのよ。夏輝以上の人なんか、いないのっ!』
さっきまでの迫力は風に乗って流れ、目の前にいる沙衣さんは、今にも折れてしまいそうな、憔悴した表情をしていた。
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