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『そろそろ行こうか。道も混むし、歩いて行かないとだしね。』
携帯の時計が18時を回った頃。
車道側を神谷さんが歩く1歩後を、麻耶と歩く。
乗船口が見えてくると、周りの人たちの中には、名前こそ知らないけど見たことのある人もいて。
『麻耶ちゃん。』
振り返った神谷さんが、チケットを手にしている。
それを受け取ろうとする麻耶の手を引いて。
『俺と、いるんでしょ?』
麻耶の腰に、腕を回した。
『神谷さ…』
『優って呼んで?麻耶ちゃん。』
完全に、2人の世界になっちゃって。
さっきまで、沙衣さんのことでキーッと角を出していた人とは思えないほど、可愛いらしくなった麻耶は神谷さんの腕にスッポリと包まれている。
『高梨さん、チケット。夏輝のこと、待っててやりなよ?アイツのことだから、もしかしたら来るかもしれない。』
クルーザーが出航するまでの残りの時間。
桟橋で、部長を待つ。
夏の空は、月を出迎えるまでが長い。
月が輝くまでに、会いたい。
瞬く星を、一緒に見たい。
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