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『受付です。gentle beauteの木崎様がお見えです。』
『……お通ししてください。35階で予約している部屋です。』
打ち合わせの日。
この前、名刺入れを届けた雨の日以来、木崎さんの仮面を外したメールが時々送られてきたり、電話も時々砕けた感じになって。
冬也と仕事をしているのが不思議な感覚で、まだ慣れない。
私が名刺入れを拾う意味って言葉も、まだ引っ掛かっていて。
そのせいで、頭の中には冬也が時折現れるようになった。
『こんにちは。』
『こ、こんにちは。お世話さまです…。』
どうしてもぎこちなくなっちゃうんだ。
グレーのスーツに薄いピンクのカラーシャツ。
今日も冬也からは、ウッディの香りがする。
『神谷は遅れて参りますので、先にお話を進めさせてください。』
コーヒーを出してくれた立花さんが出て行ってから、無意識にふぅーっと、深く息をついた。
『ぷっ…彩星、意識し過ぎ。』
『仕事中ですよ、木崎さん。』
『いいじゃん、2人きりなんだから。』
テーブルに片腕を置いて、もう片方で頬杖を突いた冬也が、リラックスした顔で私を見つめる。
『な、なん…ですかっ?』
『ん?彩星ってさ、顔がすぐ赤くなるとこも変わんないんだなって思って。
……さて、打ち合わせしましょっか。』
な、何?……なんなのよっ!!
『これ、gentle側の案です。元々のマスカラのデザインを強調したものと、双方のデザインを合わせた感じです。
正直、僕はもっといいのがあるって思うんだけど、やっぱり難しいですね。
gentleの気品・高貴をガツンと出した感じと、& eyeのセクシーで神秘な感じって言うのかな。』
冬也が持ってきてくれたデザイン案。
gentleのパッケージは白ベースが多いから、& eyeの夜空は真逆の色で。
合わせた感じのデザインは、本体とキャップで色を分けられたものだった。
でも、それよりもさっきから、冬也のフランクな雰囲気に飲み込まれそうになっていて。
『彩星、どう思う?』
って、木崎さんの口調で説明した後も、私のことは名前で呼ぶ。
『合わせたデザインって、お互いのいい所を『そうじゃなくて。』
『えっ?』
話していた私の言葉を遮られた。
『久しぶりに俺と会って、彩星は俺のことをどう思ってるか、ってこと。』
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