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『ねぇ、彩星。』
正直、戸惑う。
だって……久しぶりだねって、話せたらそれでいいって、2人ともそう思っていると感じてたから。
それ以外の答えだとしたら、相変わらず素敵だと思うし、仕事もできるし、知っている限りだけどgentleの木崎さんの評判は上々だと耳にする。
じわじわと私を押し潰す、静まり返った室内の雰囲気。
上から圧し掛かるような空気に耐えられなくなって、テーブルに広げたノートから視線を上げたら、冬也が少しだけえくぼを作って微笑んでいて。
『俺は、彩星が素敵な女性になってて、惚れ直したよ。』
『え……。』
そんなこと……冗談でも、言わないで……。
呆然とする私を、キラキラした瞳を少し細めた表情で冬也が見つめる。
『すみません、遅くなりました。』
ノックされた扉から、神谷さんが入ってきて。
『こちらこそすみません、お忙しい時間に。』
冬也は、瞬時に木崎さんに戻った。
私の隣に座った神谷さんと話す冬也の視線と合う度に、意識してしまう。
冗談だって分かってる。
久しぶりに会ったから、楽しく話した会話の1つでしかなくて、その言葉に特別な意味はないって。
『それでは、もう1度社に持ち帰って打ち合わせます。』
『度々すみません。坂木さんにもよろしくお伝えください。』
2人が談笑しながら、エレベーターホールへ向かう。
冬也って、こんなに大人っぽくなったんだ。
何もかもが、昔と変わらないのに。
今の冬也は、昔と違う人みたい。
『すみません、それではここで失礼します。』
神谷さんの挨拶に合わせて見送る。
閉じかけた扉が、元に戻って。
『あ、高梨さん。さっきの件、本心です。』
何か答えようと思うけど、こういう時に限って頭は真っ白になってしまった私。
頭の上に疑問符が浮かんだ神谷さんをそのままに、冬也はエレベーターの扉を閉めた。
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