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『さっきの件は本心って、何?』
予想通りの神谷さんの反応。
そして予想していたのに、回避する言葉が瞬時に浮かばない、まだ真っ白に近い私の頭の中。
『…なんでしょう。』
沈黙を破るのは私しかいないから、何とも不器用な言葉で回避した、つもり。
『あ、片付け!片付けしてきますね。』
神谷さんに呼び止められる前に小走りで応接に戻ると、勢いよく閉めた扉に背中を擦りながら、へなへなと腰から崩れ落ちた。
どうして、そんなこと言うの?
私が冗談だって、自分の中で咀嚼して飲み込んだばかりなのに、本心だなんて。
……それも冗談なんでしょ?冬也。
私が最初から気付いてたって、冬也は知っていて。
ずっと会いたかったって、打ち明けられて。
そして、惚れ直したって言葉は本心で……。
もしかして、本当に冬也は、私にまだ好意を寄せていてくれるんじゃないかって……嫌でもかんがえてしまう。
それなら名刺入れに写真を入れていたことも、それを私に拾わせた意味も、何となくだけどスムーズに線になっていく気がする。
でも、そんなわけがないんだ。
冬也は、大好きで離れたくなくて仕方なかったと言ったけど、そんなの今になっての後付けなんだと思う。
…あの日、冬也は。
嫌いになってくれって言ったんだから。
もう、冬也の都合で振り回されたくない。
そう思うのに、心のどこかで揺れているものが止まってくれなくて。
心の奥のもっと奥に、鍵をかけてずっと仕舞いこんでいたグレーのガラス玉が、コロコロと転がり出てきた。
美化された、曇った空の色。
苦しくて、切ない色。
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