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『ぶちょー。』 『なぁに?』 『ふふー。』 俺に身体ごと向けて両膝を抱えた彼女が、微笑みながらソファーにちょこんと座っている。 リモコンで照明をぼんやりとした明るさになるまで落として、その代わりにソファー横のライトを点けた。 向こうで買った、ファッション誌と美容雑誌を捲る。 この仕事に就いてなかったら手に取ることもなかっただろうな。 最近のファッション誌にも、男向けの美容なんかはちょくちょく載ってるから、それで事足りそうだ。 『ぶちょー。』 『んー?』 また呼ばれた。 って言うか、俺、隣にいるんだけど。 帰国したばかりの俺を気遣ってみんなが帰る時、ちょっとフラフラしていたけど……何だかんだ最後は玄関でちゃんと見送ってたから大丈夫だと思ったんだ。 『ぶーちょーおっ。』 『なに?』 『らぁーんでもらいれすっ。』 さっきからずーっとこの繰り返し。 フレンチコネクションを飲んだりタバコを吸ってるだけなのに、彩星は俺のことを見てニコニコしながら、回ってない呂律で俺のことを呼ぶ。 付き合う前に行った軽井沢の温泉で見た光景を思い出して、自然と口元が緩んでしまう。 『ぶちょーっ!』 今度は勢いよく呼んできた。 ……延々続きそうなこのやり取りに、いい加減区切りをつけないと。 『なぁに?彩星。』 『……!』 鼻の先が今にもくっつきそうな距離。 彼女の潤んだ大きな瞳は、どこに視点を合わせたらいいか迷いながらも、俺で一杯になった。 ねぇ…いま、何を考えてる? 俺のこと? ……それとも、明日何をするかとか…全然違うこと? ずっと着けていてくれるピアスに触れたくて。 彼女を包みたくて。 ソファーに突いていた手で、彩星を抱き寄せた。 上気した頬の色は、少しだけワインで染まった唇と同じくらい紅潮していて。 一層潤んだ瞳は、今にも涙が零れそう。 『……キス……早く、して?』 彩星が言うなんて思いもしなかった言葉が、一瞬だけ時を止めた気がする。 『いいよ。……しよっか。』 上目遣いの彼女の瞳に俺を映したまま、そっと押し倒した。
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