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次に、私の視界を埋め尽くしたのは、口角がキュッと上がったスマイルマークの笑顔。
妖艶で透き通るような瞳が揺れて、映る私も一緒にゆらりとした。
『ありがとう。
彩星、大切にするから。
だから……俺から、離れるな。』
付き合ったばかりの夏。
海にドライブをした日。
あの時と変わらないストレートな言葉が、私の気持ちをキュっと狭くする。
『返事は?』
頬に当てていた掌が、私の手を拘束した。
部長自身を支えていたもう片方も、私の手を押さえつける。
単純に、はい、と答えてもいいのかもしれないけど、それだけじゃ足りなくて。
でも、言葉にしようとすると、大好きとか知っているものしか浮かばなくて。
そんなことはきっと見透かしていそうな部長の瞳に、コクリと頷いてみせた。
右にあったコート掛けから、しゅるっと泳いできた、レジメンタルのネクタイ。
突然解放された手は、頭上で1つに纏め上げられた。
『えっ、部長っ?!』
ベッドの上に居場所を失ったような気持ちになる。
……さっき会社の前で追いつめられた、甘くて溺れそうな波打ち際に向かうような……。
『ごめん、もう……無理だ。』
目蓋に落とされた優しいキス。
柔らかく溶け合う唇が、お互いの体温を共有し始めて。
吸い上げられた下唇は、腫れそうなほどに熱くなった。
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