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『もしもし、彩星?』 自分の家に帰って、少ししてから鳴った携帯に表示されたのは、部長の社用携帯の番号。 壁の時計は、やっぱり22時を少し回った頃で。 『はい。元気?』 『うん。毎日バタバタだけど、それなりにって感じかな。 彩星の声聞くの久しぶりだなぁ。』 部長が先月ミラノに戻ってから、声を聞くのは4回目。 メールは毎日送りあっていたけど、寂しかった。 変わらない甘くて低い声は、少しだけ遠く感じるけど聞くだけで落ち着く。 gentleとコラボ企画を進めていることも、今日がお花見だったことも事前に伝えていたけど、肝心の冬也のことはまだ言えなくて。 部長とこれ以上離れるなんて、考えてもいないことだから。 だから言えてないっていうより、言うつもりはない。 『……それでさ、近々正式に日本に戻る時期が決まりそうなんだ。』 『…えっ?!』 『もしかしたら早くなるかもしれない。』 『本当に?!』 電話の向こうから部長の笑い声が聞こえる。 『俺はいつも本当しか言わないよ。』 電話を切ってから、心が苦しくなる。 本当のこと、私は言えてない。 元彼と再会してしまっていること。 まだ自分の中で、その恋が終わっていないこと。 でも、部長と別れるつもりもなくて、冬也のことを選ぶ気持ちもないこと。 もし逆の立場で、それを聞かされたら、いい気分はしないから。 だから、言うつもりはないって決めているけど。 やっぱり、心が苦しくなる。 痛いほど揺れている心に触れるように、そっと胸に手を当てた。
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