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省エネで弱冷房の応接室は、女性にとってはありがたいけど、外から来た人にとっては暑いようだ。 gentle側のデザイン案を話している冬也が、麻のジャケットを脱いで背凭れに掛けた。 手元の資料には、グラデーションになったデザイン。 白と黒が途中で混ざり合ったところには、ラインストーンが輝いている。 私の心の中にある、グレーみたいな色。 『もっといいものがあるとは思うのですが…今日はこの案でお話させていただきました。』 一通り話し終えた冬也と、視線がぶつかる。 その時間は、一瞬よりも長く感じて。 『高梨さん、デザイン案の説明を…。』 神谷さんの声で、視線と視線を結んでいた糸がパチンと弾けるように切れた。 今回のデザインは自信がある。 gentleの白に、夜空色が垂れるように下がって、その先にはラインストーンが輝くデザイン。 その逆のパターンも考えたけど、その場合はラインストーンが夜空色に散りばめられているものにした。 白の部分には、立体的なgentleのロゴ。キャップの上には&のロゴ。 『いかがでしょうか。』 『素敵ですね。若い人も手に取りやすいデザインだし、両社のカラーが上手く取り入れられていて。』 冬也が渡した資料を見て、手帳にペンを走らせている。 『木崎さん、弊社はこのデザインで推していけたらと思っていますので、御社の方でご判断いただいて、またご連絡いただけないでしょうか。』 『畏まりました。』 神谷さんと冬也が、次回の予定を話してから応接室を後にした。 『高梨さん、その後、大丈夫?』 一緒に応接室の片付けをしていたら、神谷さんが気遣ってくれて。 『何だかすみません。特にプライベートなお話はいただいてないので大丈夫です。』 『それにしても、木崎さんって大胆だよなぁ。俺、あんなこと絶対できない。』 お花見の席の出来事を思い出して、神谷さんが腕組みをしている。 『夏輝には言わない方がいいよ。 高梨さんにそのつもりがないなら、上手くかわしていくしかないし、仕事って割り切れたら楽かもね。』 『はい。そのつもりです。また何かあったらお話聞いてください。』 企画部に戻るエレベーター。 ふぅーっと息をついて、どこまでも広がる梅雨前の空の向こうを見つめた。 部長、早く帰ってこれたらいいな。
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