128人が本棚に入れています
本棚に追加
夏の発売予定に間に合うように、再来週までに決めることがたくさんある。
ネーミング、デザイン、液状…。
煮詰まった時は、屋上で頭の中をリセットして。
細いパックのグレープフルーツジュースにストローを差して、一口分を吸う。
『どう?コラボの件は進んでる?』
『あ、お疲れさまです。発売予定が見えてきたので、あまりのんびりもできないんですけど、煮詰まってきちゃって。』
少し後に来た武田さんが隣に座った。
『そういえば、さっき部長から電話あったみたいよ。立花さんが探してたから、戻って聞いてみたら? 』
『はいっ、そうしますっ。』
部長からの電話。
私が出たかったな。
『立花さん。』
『高梨ちゃん、惜しい!あとちょっと早かったら部長と話せたのに!』
ホワイトボードに向かって、部長の行動予定を書いている立花さんが振り向いた。
〈明後日一時帰国予定〉
『…だって。よかったねぇ。』
冷やかすような表情で微笑む立花さんが、デスクに戻った。
こういうサプライズは、仕事のモチベーションが上がっちゃう。
部長に企画を見てもらえるようにしないと。
『高梨ちゃん、ちょっと下のコンビニ行ってきてもらってもいい?』
『はい。』
『いつものカフェオレ買ってきてもらえる?』
『了解ですっ。』
スキップしちゃいそうなほど、足取りは軽快で。
明後日の服も、何を着ようかなって考えちゃったりして。
1Fのコンビニに着いて、冷蔵庫で冷やされていたチョコとオレンジティーと、立花さんのカフェオレを持つ。
『あ、これも一緒で。』
右側から伸びてきた、明るいネイビーのスーツ。
いつか冬也がそうした時みたいな光景に、身体が固まったように動かない。
唯一動くのは、頭の中だけ。
思いつくことが1つあるけど、それは有り得ないことで。
『これで。』
ぼんやりする私をそのままに、お会計を済ませるその人が隣に立った。
『ほら、行くよ。』
コンビニの袋を持ったその人は、私の顔を覗き込んできて。
…………有り得ない。
明後日帰国の部長が、なぜか私の手を引いている。
最初のコメントを投稿しよう!