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『部長?』
『ん?どうした?』
って、返事をした部長は、指を絡めて手を繋ぎ直してきて。
なんで、今ここに部長がいるの?
しかも周りの視線が、かなり刺さるんですけど。
恐らくミラノで買った明るいネイビーのスーツは、とてもよく似合っているけど、部長を一際目立たせる。
『帰ってきてほしくなかった?』
いたずらに笑う部長が、見つめる私の瞳を埋めていて。
『そうじゃなくって……明後日じゃないんですか?!さっき立花さんにそう聞いたばかりです。』
『そうか、それなら驚いても仕方ないよなぁ。』
繋いでいた手を離した部長がいたずらな表情のまま、ポケットにその手を仕舞って足を止めた。
エントランスの近くにある大きな観葉植物。
そこまで、お互いに何も話さずに、ただ手から伝わる体温を愛しく感じて歩いた。
『高梨さん、企画部には明後日行くから、みんなにもよろしく伝えて。今日と明日は、客先に顔を出す予定だから。』
『はい、分かりました。お気をつけて。』
エントランスのソファーの前。
部長からコンビニの袋を受け取った。
会社の前に停まっていたタクシーに乗り込むまで見送ってから、エレベーターホールに向かう。
受付のお姉さんとか、すれ違う女子社員の視線が、ほんの少し気になるけど。
35Fのボタンを押して、透明なエレベーターの壁に寄りかかる。
コンビニで再会した瞬間に、まだ慣れない鼓動が現実に私を戻した。
オレンジティーを飲んで、ちょっと落ち着こう。
どうして、部長がいるのかは分からないけど。
会えて嬉しいって、やっと実感できてきて。
『あれ?!これ買ってないんだけどな。』
白いビニール袋に、なぜか買った覚えのない黒い箱。
包装されていないそれは、簡単に開けられそうで。
『……えっ。』
ピンクゴールドの細くて華奢なリング。
細かいダイヤが1周分も入っているけど、嫌味に感じない。
蓋の内側にセットされていた、小さな紙を開いた。
〈今日は、俺が彩星に恋をした日だから。どうしても今日渡したくて帰ってきたよ。
先に渡したリングに重ねても、きっと素敵だと思うんだけど、どうかな?〉
『嘘……。』
本当しか言わないって、この前言われたけど。
こんなの、嬉しすぎて。
やっぱり、信じられないよ。
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