19

14/38
前へ
/38ページ
次へ
『気に入ってくれたみたいで良かった。』 昨日の夜、部長と見つめあって眠る時。 そう言って、部長はリングにそっと口づけた。 昔、冬也が同じようにしたことを一瞬思い出したけど、部長のは比べものにならないくらい安心できる。 『来年の今日は、何が欲しい?』 って、おでこにキスされながら聞かれて。 『一緒に居られたらいいです。』 『じゃあ、俺が欲しいものちょうだい?』 『あまり高いものは買えないですよ?』 なんて、他愛ない話をして。 どちらからともなく瞳を閉じて、何度もキスをした。 『ふふ…。』 思わず、幸せの声が漏れる。 『なーに、ニヤけちゃって。部長に会えただけで、本当に表情が明るくなるんだから。』 出勤してきた武田さんと、自販機の前で会った。 『あれっ?!高梨ちゃん、それ。』 武田さんの視線の先は、昨日のリング。 華奢だから目立たないと思ってたけど、さすがにダイヤは存在感があるみたいで。 『昨日、もらっちゃいました。』 『部長ったら、溺愛ね。朝からごちそうさま。お昼に尋問させてもらうわよー。』 野菜ジュースを買った武田さんが、先に企画部に入っていった。 私は、その足で営業1課へ。 朝一の内線は、神谷さんからのお呼び出しだと思ったら、瀬名さんからだった。 『失礼します。おはようございます。』 さすが1課。出勤時間20分前にして、ほぼ全員がすでにパソコンを開いたり、電話をして仕事を始めている。 『彩星ちゃん、こっち。』 瀬名さんと初めて会った、簡易的な打ち合わせに使う場所。 朝から爽やか知的オーラ全開の瀬名さんが、ヒョコっと顔を出して手招きしている。 田村さんは、まだ来てないのかな。 もうこれ以上、睨まれたくないんだもん。 『おはよう。』 『おはようございます。どうしたんですか?』 『デザインをお願いしたい話があるんだけど、忙しいよね?』 『gentleとのコラボで、急ぎの案はちょっと難しいんです。すみません。』 『先方に時間もらえるか聞いてみるけど、もし大丈夫だったらお願いしたいんだ。 客先が、彩星ちゃんご指名なんだって。』 瀬名さんが、眼鏡越しにウインクした。 うわぁ……カッコいい。 瀬名さんも、なかなか罪深い。 『分かりました。またご連絡ください。』 田村さんは、間違いなく面食いだ。 ……私も例外じゃないけど。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加